日本マイクロソフト株式会社 Microsoft Partner Networkブログからの編集転載です。
クラウド時代の産学連携
~京都大学とISAOが開拓する新しい文教市場
現在の社会が抱える「子育て」をキーワードにした少子化対策に向けて、チャットボットを活用した取り組みが京都大学の学術メディアセンターで行われています。
同研究室を率いる小山田耕二教授は、日本IBMを経て教鞭を執るようになったという異色の研究者。
小山田教授は自身の研究を子育ての現場に活用するためのパートナーとして、マイクロソフトテクノロジーに精通する株式会社ISAOとチームを組み、新しい形の産学連携として子育て支援チャットボットの研究開発を進めています。
ISAOの概要について
―― まず会社の概要についてお教えください。
石原
ISAOは、システムインテグレーターである株式会社CSK(現 SCSK株式会社)と株式会社セガとの ジョイントベンチャーとしてスタートしました。
当時、インターネットに接続できる世界初の家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」向けの ISP(インターネットサービスプロバイダ)としての役割を担う一方、ゲーム会社のオンプレミスの物理サーバー構築・管理などの事業を展開していました。
2010年に豊田通商株式会社100%子会社となりましたが、100 人程の正社員を擁し、クラウドの活用支援、課金決済代行サービス、Webサービスやアプリの受託開発を行っています。
また、「世界のシゴトをたのしくする」を中長期ビジョンとして、社内コミュニケーションサービス「Goalous(ゴーラス)」や、セキュアかつユーザビリティーの高い認証・業務改善ソリューション「Mamoru(マモル)」シリーズを自社プロダクトとして展開しています。
今回の小山田研究室との取り組みは、ISAOとしては非常に珍しい形態です。
新しい産学連携
―― 協業のきっかけは何だったのですか。
石原
インターネットの検索でISAOを見つけていただいたとのことで、小山田先生から連絡をいただきました。
今回のプロジェクトの背景には小山田先生の研究がありますので、詳細は先生から説明していただければと思います。
小山田
私は学術分野の出身ではなく、1985年から1998年まで日本IBMで過ごした後に京大で研究する機会を得ました。 IBMの時代から「可視化」を研究のテーマとしていて、現在はCOI (センター オブ イノベーション) プログラムの一環として「子育て」の分野でAIの活用方法を研究しています。
京都の精華町で実施したヒアリングから「仮想おばあちゃん」というチャットボットの開発プロジェクトが発足しました。 これは、赤ちゃんの心理を可視化しようということで、赤ちゃんの泣き声や映像を元に赤ちゃんの状態 (泣いている原因など) を分析して保護者にガイドを提供することを始めとして、子育てに関するQ&A を提供することを目的としています。
その際、テキスト・ベースの会話データ、赤ちゃんの音声と映像、さらに母親のバイタル・データ (母乳や唾液の状態など) の多様なデータを収集および分析する必要があるので、堅牢なインフラストラクチャと非構造データを扱うことのできるデータベースが不可欠です。
その分野で支援してくれる企業をインターネットで検索したところ、ISAOさんが見つかりました。
話をしてみると、マイクロソフトのAzureに精通しているということで、私の先輩もマイクロソフトの研究所で言語処理に携わっていたので私なりの「マイクロソフトのイメージ」があったこともあり、協力していただくことになりました。
―― それまでお互いに何かしらの接点があったということではないのですか?
小山田 先ほど言ったようにビッグデータの処理が可能な非SQLデータベースというキーワードでインターネットを検索してISAOさんが見つかったというのがきっかけです。
石原
ISAOは Azure 活用に関しての検索結果でかなり上位にリストされますが、それまで文教関係のお客様から問い合わせをいただいたことはほとんどありませんでした。
通常は、受注したインフラストラクチャやソリューションを納品してプロジェクト完了となるのですが、小山田先生のお話を聞いて、このプロジェクトはコンサルティングからシステム構築、そしてその後の監視とAIのトレーニングまでが必要になると考えて、先生の研究室の学生さんたちとのハンズオン形式での開発を行うことにしました。
私たちが先生の研究室にお邪魔して、メンター的に学生さんたちを指導してアプリを開発してもらうという形式です。
実際に私たちが研究室に出向く機会は限られるので、学生からの質問にはオンラインでのサポートも提供しました。
そういった意味では、私たちが持っている技術を先生の研究室に展開したという意味合いもあったと思います。
―― 従来の産学連携とはかなり質を異にしますね。
小山田
私が日本IBM出身の研究者であった点も大きいと思います。
一般的な大学の研究者は、このようなアプローチは取りにくいかもしれません。
石原
小山田先生の研究室で立てた計画を基にISAOがインフラストラクチャを担当し、研究室の学生さんにフロントエンドのアプリを開発してもらいました。
Microsoft Azureをプラットフォームとして使用したので、開発作業を効率的に進めることができました。
小山田
「仮想おばあちゃん」はLINEに組み込まれたチャットボットです。
主な機能は2つあり、1つはテキスト・ベースの質問に対してホームページなどに掲載されている情報を提供するというもので、もう1つは乳児の泣き声から乳児が泣いている原因を分析して保護者に対処方法をガイドするというものです。
最初の機能ではAzureのQnA Makerを使用しています。2 番目の機能では、Azure Cosmos DB、Data Factory、Blob Storageなどのマイクロソフトテクノロジーを利用しています。
堀田
エンドユーザーからの質問への対応にQnA Makerという既存のサービスを使用し、機械学習の方にVM を使いました。
結果として、VMを重点的に開発できたので廉価に開発することができました。
小山田 大学の研究事業ということもあり、JSTからの補助金もありますが、予算がかなり厳しいので、いつか(ISAOさんに)見限られるのではないかと心配でした(笑)。
マイクロソフトテクノロジーで実現する効率的な開発作業
―― ハンズオン形式での開発ではマイクロソフトテクノロジーを利用したことによってメリットが生まれたと聞いています。
秋山
今回は、最終的なソリューションではなく、プロトタイプを作ることを目的としたプロジェクトでした。
そういった意味でも、ISAO の役割は学生さんに技術を伝えるメンター的な色合いが強かったと思います。
ハンズオンのワークショップの参加者の中には Microsoft Azure をあまり知らない人もいましたが、比較的短い時間でクラウド市場における特徴や強みを理解してもらえました。
堀田 Azureを始めとするマイクロソフトのテクノロジーではユーザーインターフェイスが一貫しているので、1 日半程度の短いハンズオンワークショップでほとんどの人が使い方を習得しました。
―― 今後の展望について教えてください。
小山田 今回のプロジェクトは最終的なユーザーが定義されていないプロトタイプ形式の開発作業を ISAOの皆さんにお願いしたのですが、学生にとっても大いに刺激になったと思います。
秋山 技術者として学生さんたちにナレッジを伝えるという点も大きかったのですが、テクノロジーに関する興味が高かったので学生というよりは新卒の社員と同じような関係でした。
石原
今回のプロジェクトはISAOにとって教育機関と協業する初めての機会でしたが、クラウドの利点を活かし、プロジェクト全体がアジャイルであるように努めました。
多くの大学の研究室では今でもオンプレミスの専用スーパーコンピューターが使用されていますが、これからは用途によってはクラウド化が進むと思います。
こういった取り組みをきっかけに文教市場において ISAOの知名度が浸透し、新たなお客様からの問い合わせが増えるとよいと思います。
ご連絡、お待ちしております(笑)。
小山田
先の話にもありましたが、マイクロソフトのテクノロジーを使用したことによって、一般的な学生にとっての垣根が低くなったと思います。
今回のプロジェクトの成果に対するさまざまな方々からのフィードバックを基にさらに改善したいと思います。
今のところはまだ研究段階ですが、今後の展開次第では事業化も可能かなと思っています (笑)。
―― 最後にマイクロソフトパートナーへのメッセージをお願いします。
小山田
私が専門とする心理の可視化では、人の感情を適切に可視化する必要があります。そのためには、多様な形式のデータを効率的かつ正確に処理するデータベースが不可欠です。
その分野においてマイクロソフトは大きな可能性を提供していると思います。今後の改善を大いに期待する一方で、ISAOさんのようにマイクロソフトのテクノロジーを学術分野で活用するための支援を提供してくれる企業が多く生まれることを望んでいます。
石原
ISAO はクラウドネイティブ化推進の活動を行う中で、業界内の横のつながりも強化しています。
直近では、福岡を拠点とする株式会社オルターブースが主催する Alternative Architecture DOJO (オルタナティブアーキテクチャ道場) のオフラインセミナーをISAOで実施し、Microsoft MVPの弊社エンジニアが登壇者として参加しました。
今後もこのような活動を続けていく予定なので、チェックしていただければと思います。
日本マイクロソフト株式会社 Microsoft Partner Networkブログからの編集転載です。