日本マイクロソフト株式会社お客様事例からの編集転載です。
フル クラウド化から 2 年が経過したゴルフダイジェスト・オンラインにみる、クラウド時代の IT 運用
ゴルフダイジェスト・オンライン (以下、GDO) は、ゴルフ分野におけるインターネット サービスを確立させた、パイオニアとも呼べる企業です。今日のゴルフ産業には"市場縮小"という厳しい逆風が吹いています。しかし、GDO はこうした環境下でも、6 期連続の増収を記録するなど継続的な成長を遂げています。この要因は、"ゴルフ×テクノロジーの徹底追及" に沿った事業強化、そしてここへ妥協無く挑戦するという意思にあります。GDO は2017年、約 300 インスタンス規模の IT 基盤のフル クラウド化を実施しました。そして、ここで得たアジリティ (IT、経営、事業の俊敏性) とテクノロジーをもって、数々の事業を迅速に発展させているのです。
ただ、例え高い事業スピードを持っていても、安定してサービスが提供されなければ、顧客の支持を得ることはできません。あらゆるサービスと密接に接続する SAP ERPのような基幹システムは、同社の成長を支える極めて重要な存在だと言えるでしょう。GDO では決して止まることが許されないこの SAP ERP を、Microsoft Azure で稼働。高い信頼性を有する Microsoft Azure と、これをフル マネージドで運用する ISAO の「くらまね for Azure」が、GDO のサステナビリティ (持続可能性) を支えています。
フル クラウド化によって経営スピードを加速させる
ゴルフ市場に吹く風は、決して "追い風" とは言えません。こうした中にあってもビジネスを拡大し続けるためには、既存市場のシェアを高めるだけでなく、新たな需要の創出、新規市場への参入といった活動が欠かせません。
GDO が今なおビジネスを成長させている理由は、テクノロジーを駆使することで、顧客層の拡大や顧客関係の深化に成功している点にあります。例えば同社では、2018 年 1 月に国内リリースしたラウンドデータサービス「ARCCOS 360」、同年 8 月にゴルフ練習場への試験導入を国内でスタートさせた「Toptracer Range」など、自社とパートナーの力をもって数々の新しいゴルフ ライフスタイルを社会に提案しています。また、2018 年に米国のゴルフレッスンチェーンである GolfTEC Enterprises LLC 社を買収するなど、海外への市場展開も本格化させているのです。
これだけを見ても、GDO が 2018 年というわずか 1 年の間で数々の取り組みを進めていることが伺えます。同社はなぜ、ここまで俊敏な事業展開が行えるのでしょうか。株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン システムマネジメント室 副室長の白尾 良 氏は、このように述べます。
「はじめるべきならば即時にスタートする、そんなスピード経営が今の時代では求められています。これを見定めて当社は 2017 年に、オンプレミスで運用していた約 300 インスタンス規模の IT 基盤をフル クラウド化しました。狙いは言うまでもなく、経営スピードを支えるためのアジリティの確保です。ここでは Amazon Web Services (以下、AWS)、Google Cloud、そして Microsoft Azure (以下、Azure) を利用したマルチ クラウドの下、信頼性とアジリティを両立した IT 基盤を整備しました。この環境があるからこそ、企業買収やサービスの新規リリースなどを迅速に進めることができていると考えています」(白尾 氏)。
GDO では特定のクラウド上に全ての IT を構築するのではなく、マルチ クラウドの方針を採っています。例えばミッション クリティカル性の高い SAP ERP の場合、同社では Azure でこれを稼働させています。白尾 氏は「Azure はエンタープライズ水準のサービスだと考えます。これは、プラットフォームとしての信頼性だけでなく、サポートの手厚さも含んだ評価です。SAP ERP は決して止めてはならないシステムですから、これに耐え得るクラウドを選択することは当然の帰結でした。実際、フル クラウド化から 2 年が経過しますが、SAP ERP はほぼノン トラブルで稼働を続けています。」と述べ、AWS や Google Cloud も、同じく適材適所の考えの下、各種サービスで利用していることを説明しました。
クラウドと同等に MSP の選定は重要
先で白尾 氏は、SAP ERP 環境がほぼノン トラブルで稼働を続けていることに言及しました。しかし、サービスの安定提供を継続する上では、"フル クラウド故の難しさ" が存在するといいます。
白尾 氏は「フル クラウド化よりも前からフロント システムなどでクラウドを利用していたため、マルチ クラウドであってもユーザー企業である自分達だけで過不足なく運用できると考えていました。ですが、フル クラウド化から早々、これは間違いだと気付きました。」と述べ、このように説明します。
「クラウド サービスの品質をどこまで保証するか (SLA)、またサポートの程度など、様々な要素がクラウド事業者の間では異なっています。例えば同じ SLA でも、Azure ではこれを "保証" としている一方で別のクラウドは "目標" だったりするのです。仮にサービスに障害が発生した場合、フル クラウドではまず不具合がどのクラウドの環境を起因として発生しているのかを切り分けて、それから該当するクラウドのサービス ポリシーに準じながら対応を進めなければなりません。必然的に運用は複雑化します。ユーザー企業だけでこれを行うには限界がありました」(白尾 氏)。
同氏はこの限界の具体例として、2018 年初めに発生した、「Spectre」「Meltdown」と呼ばれる脆弱性騒動を挙げます。「Spectre」「Meltdown」は、今現在稼働するほとんどのプロセッサーが該当する脆弱性であり、オンプレミス・クラウド問わず全ての IT 環境が対応を迫られました。
オンプレミスであれば、全ハードウェアを対象にしてソフトウェア的にパッチ処理を施すことで一次対応が可能でしょう。しかし、クラウドの場合は勝手が異なります。Hypervisor より下のレイヤーに手を触れることができないために、まずはクラウド事業者がどのように対応するのか情報を集めなければなりません。そしてこの "クラウド事業者の対応" だけではサービス提供が困難ならば、今度は "ユーザー企業の対応" を考案し、実行せねばならないのです。
「これを各クラウドで切り分けて行うわけですから、独力主義では 2018 年の騒動を乗り切るのは困難だったでしょう。幸いにして、当社は 2017 年に MSP (Management Services Provider) とのパートナーシップの見直しを実施しました。フル クラウドに即した運用体制を敷いたことで、ここに対応することができたのです。」白尾 氏はこう当時を振り返り、MSP の選定はクラウド選定と同じくらい重要であると強調。Azure の MSP として契約している ISAO の「くらまね for Azure」を例に、選定時に注視すべき事項を説明します。
「フル クラウド化にあたって SAP ERP の環境構築を支援頂いたベンダーに当時は運用もお願いしていました。ただ、本格的に運用の在り方を見直すべきと考え、ゼロベースで MSP の検討を行いました。Azure に関する豊富なノウハウを持つことは、あくまでも前提条件です。マルチ クラウドを採る当社としては、Azure だけでなく AWS、Google Cloud にも深い知見を持つことを期待しました。SAP ERP は AWS や Google Cloud で稼働する様々な IT サービスと連携しています。たとえ Azure が過不足なく稼働していたとしても、他のクラウドとうまく接続できなくなる場合には SAP ERP の停止に近い悪影響を引きおこしてしまうのです。Azure だけでなく AWS や Google Cloud 上の環境も踏まえたアドバイスをしてくれる。当社にとってはそんなパートナーがベストであり、『くらまね for Azure』を提供する ISAO はこの存在そのものでした」(白尾 氏)。
フル クラウド時代の運用体制で、世界的インシデントを乗り切る
GDO が実施した MSP の見直しによる効果は、「Spectre」「Meltdown」を要因とする騒動の際に形となって表れました。実際に GDO は、騒動をどのようにして乗り越えたのでしょうか。株式会社ISAO の小泉 介更 氏と橋本 豪 氏は、次のように説明します。
「サポートの手厚さや高水準な運用ポリシーなど、当社としてもマイクロソフトや Azure には強い信頼を寄せています。ただ、騒動では Azure であっても、他のクラウドと同様、脆弱性への対応のために強制メンテナンスを行うことが発せられました。これはつまり、否応なしに SAP ERP を停止させなければならないということです。しかし、これに従うだけでは当社が入っている意味がありません。何としてでも SAP ERP の稼働を継続する、そのために運用でカバーする方策を検討しました」(小泉 氏)。
「突発的なインシデントだったため、世の中の公開情報には役に立つものがほぼありませんでした。そこで当社がとったのが、VM のサイズ変更、リソースの解放です。内部検証によって、VM をデプロイする際に、Azure のデータセンターにある物理ハードウェアも移される可能性があることを知っていました。サイズの変更やリソースの解放によって、同じリージョンであってもメンテナンスが完了済みの "停止しない環境" へ移せると考えたのです。仮説のとおりこれはうまくいき、騒動の中でも SAP ERP を稼働させ続けることができました」(橋本 氏)。
この説明を受けて、白尾 氏は「当社だけではこの発想は生まれなかったでしょう。改めて、MSP が持つ情報量の多さが偉大だと感じます。」と評価します。さらに、こうした Azure への深い理解に加え、マルチ クラウド故の MSP への期待についても ISAO は応えていると同氏は続けます。
「先日、他のクラウドで稼働しているゴルフ場の予約システムが停止するという問題が発生しました。障害の理由が PaaS で稼働する RDB (Relational Database) にあることは分かったのですが、PaaS のフル マネージドという利点がここでは仇となり、運用でカバーするにも何もできない状況でした。該当のクラウド サービスも別の MSP に入ってもらっていますが、事業への悪影響が大きいシステムのため、早急に復旧したいと考え ISAO へ相談を投げかけました。すぐに ISAO からアドバイスを頂くことができ、これを実行することで早期に問題を解消できました。Azure 以外のクラウドに深い知見を持つこともそうですが、何よりも驚いたのは、契約範囲外のことであっても真摯に対応いただける点です。普通の MSP はここまで行いませんから」(白尾 氏)。
先進テクノロジーも駆使し、経営スピードをより加速させていく
社会のクラウド化が進んだことで、今、世の中では "クラウド故のメリット" が多く取り上げられています。ただ、クラウド シフトをした企業だけが分かる "クラウド故の難しさ" というのは、どうしても存在します。クラウド事業者と MSP とのパートナーシップの下、この "難しさ" を解消に導きつつある GDO は、クラウド時代における 1 つのモデルケースだといえるでしょう。
「フル クラウド化を実施して、これから 3 年目を迎えます。サービスを安定提供するための体制は整備できました。今後は "クラウド故のメリット" を活かすことで、経営スピードをより加速させていきたいと思います。」白尾 氏はこう述べ、今後の構想を語ります。
「2017 年ではオンプレミスの環境をそのままクラウドへ移行しました。2020 年 2 月までをターゲットに、今度はアーキテクチャ全体を見直す、いわゆるリフト アンド シフトを進めたいと考えています。そこでは Azure の PaaS も積極的に活用する予定です。また、先進テクノロジーを積極的に事業へ取り入れていくことも考えています。例えば AI による画像診断を行えば、今は手作業で行っている中古クラブ買取の査定業務を自動化し、より迅速にお客様へ査定結果をお伝えすることができるでしょう。Azure の持つ Cognitive Services や Azure Machine Learning といった機械学習サービスは、ここで有効に活用できると考えています」(白尾 氏)。
これに応えるように、小泉 氏は「Azure は移行ツールも充実しています。アーキテクチャの見直しにあたっては、当社の持つ各クラウドの知見を活かし、これからも GDO 様の経営を IT から支えてまいります。」と語りました。
テクノロジーを武器に、顧客層の拡大や顧客関係の深化、そして従来の枠組みにとらわれない新たなビジネスの創造に取り組む GDO。同社の取り組みがゴルフ産業に新たな需要を生み出し、GDO だけでなく産業全体のサステナビリティを高めていくことが期待されます。